ニュースレター「サンゴ礁の自然環境」

2017年6月号

月を感じる沖縄の生き物

2015年3月号

沖縄の生活に根付く海藻

図 2 満月 望月(もちづき)とも呼ばれる。日没付近から昇り始め、明け方付近に沈む。 最後に 現代において、月の変化が人間に影響を及ぼすかどうかは、未だにはっきりとした証拠がありません。しかしながら、多くの古典文学において月が登場することから、昔の人々の生活において月は魅力的な存在であったことが分かります。その一方で、今の私たちの生活では、電力の普及によって夜間でも街並みが明るくなってしまい、昔の人々が見たような月に出会える機会が知らぬ間に減っているように思います。ですので、天気がいい夜は電気を消して、お月様を眺めてみるのもいいかもしれません。 参考文献 石田真理雄他編:時間生物学辞典、朝倉書店、p. 30-31、2008. Robert E. Johannes: Env. Biol. Fish.、 3(1)、 65-84、 1978. 執筆者 福永 耕大
月を感じる沖縄の生き物
はじめに 皆さんは、多くの生物が月に影響を受けていることをご存知でしょうか?作り話の中で狼男は満月の夜に変身するといわれますが、現実でも月と生物には密接な関わりがあるのです。今回は、地球唯一の衛星である「月」と沖縄の生き物の関係を紹介します。 「月」と沖縄の生き物 沖縄では初夏になると、サンゴの集団産卵がメディアで大々的に取り上げられます。そのため、「サンゴの産卵日=満月の夜」ということは多くの人々が知っています。このような新月や満月といった月の満ち引きに合わせた1ヶ月の周期で行われる産卵は「月周性産卵」と呼ばれています。実は、沖縄にはサンゴ以外にも月周性産卵を行う生き物がいます。それが、サンゴ礁域の浅い海に生息するハタ科魚類のカンモンハタ(Epinephelus merra)(図 1)です。カンモンハタは産卵期になると、1ヶ月に1度、満月の夜に集まって一斉に産卵することが知られています。しかし、彼らはなぜ、満月の夜に集まって産卵するのでしょうか?
図 1 カンモンハタ 沖縄の方言でイシミーバイと呼ばれる。 英名は Honeycomb grouper:“ハチの巣”模様のハタ。 月周性産卵のメリット 実は、月周性産卵には、子孫をより多く残すための巧みな戦略が隠されています。まず、決まった場所へ同時期に集まることで、オスとメスの出会う機会が増えて卵の受精率を向上させる効果や、集団を作ることによって外敵に襲われる危険性を分散させる効果があるといわれています。次に、カンモンハタの卵は海水に浮く性質を持つので、潮の満ち引きが大きくなる満月で産卵することは、より広い範囲に子孫を拡散する効果があると考えられています。 このような月の変化に合わせた活動リズムは、国内においては沖縄の生き物で顕著にみられることが分かっています。それでは、なぜ沖縄の生き物は月の変化に合わせた活動リズムを持つのでしょうか?その理由を次の章で紹介します。 どうして「月」? 沖縄の生き物が月の変化に合わせた活動リズムを持つ理由は、沖縄と日本本土に生息する生き物をとりまく地球環境の違いにあります。生き物は、気温や日長といった周辺環境の変化を手がかりにして季節を認知しています。しかしながら、亜熱帯気候の沖縄は温帯気候の日本本土に比べると日長や気温の変化が小さく、季節を知る手がかりが乏しい状態にあります。そのため、月の変化による影響が相対的に大きな手がかりとなり、沖縄の生き物は季節の認知に月の変化を利用するようになったと考えられています。 近年の研究によって、月周性産卵を行うサンゴや魚類は、「月明り」を感じることで産卵のタイミングを測っていることが明らかとなりました。しかし、どのような仕組みで月明りを感じているかといった、生理機構に関しては未だに不明な点が多く、今後の研究が期待されます。
図 2 満月 望月(もちづき)とも呼ばれる。日没付近から昇り始め、明け方付近に沈む。
最後に 現代において、月の変化が人間に影響を及ぼすかどうかは、未だにはっきりとした証拠がありません。しかしながら、多くの古典文学において月が登場することから、昔の人々の生活において月は魅力的な存在であったことが分かります。その一方で、今の私たちの生活では、電力の普及によって夜間でも街並みが明るくなってしまい、昔の人々が見たような月に出会える機会が知らぬ間に減っているように思います。ですので、天気がいい夜は電気を消して、お月様を眺めてみるのもいいかもしれません。 参考文献 石田真理雄他編:時間生物学辞典、朝倉書店、p. 30-31、2008. Robert E. Johannes: Env. Biol. Fish.、 3(1)、 65-84、 1978. 執筆者 福永 耕大
月を感じる沖縄の生き物
はじめに 皆さんは、多くの生物が月に影響を受けていることをご存知でしょうか?作り話の中で狼男は満月の夜に変身するといわれますが、現実でも月と生物には密接な関わりがあるのです。今回は、地球唯一の衛星である「月」と沖縄の生き物の関係を紹介します。 「月」と沖縄の生き物 沖縄では初夏になると、サンゴの集団産卵がメディアで大々的に取り上げられます。そのため、「サンゴの産卵日=満月の夜」ということは多くの人々が知っています。このような新月や満月といった月の満ち引きに合わせた1ヶ月の周期で行われる産卵は「月周性産卵」と呼ばれています。実は、沖縄にはサンゴ以外にも月周性産卵を行う生き物がいます。それが、サンゴ礁域の浅い海に生息するハタ科魚類のカンモンハタ(Epinephelus merra)(図 1)です。カンモンハタは産卵期になると、1ヶ月に1度、満月の夜に集まって一斉に産卵することが知られています。しかし、彼らはなぜ、満月の夜に集まって産卵するのでしょうか?
図 1 カンモンハタ 沖縄の方言でイシミーバイと呼ばれる。 英名は Honeycomb grouper:“ハチの巣”模様のハタ。 月周性産卵のメリット 実は、月周性産卵には、子孫をより多く残すための巧みな戦略が隠されています。まず、決まった場所へ同時期に集まることで、オスとメスの出会う機会が増えて卵の受精率を向上させる効果や、集団を作ることによって外敵に襲われる危険性を分散させる効果があるといわれています。次に、カンモンハタの卵は海水に浮く性質を持つので、潮の満ち引きが大きくなる満月で産卵することは、より広い範囲に子孫を拡散する効果があると考えられています。 このような月の変化に合わせた活動リズムは、国内においては沖縄の生き物で顕著にみられることが分かっています。それでは、なぜ沖縄の生き物は月の変化に合わせた活動リズムを持つのでしょうか?その理由を次の章で紹介します。 どうして「月」? 沖縄の生き物が月の変化に合わせた活動リズムを持つ理由は、沖縄と日本本土に生息する生き物をとりまく地球環境の違いにあります。生き物は、気温や日長といった周辺環境の変化を手がかりにして季節を認知しています。しかしながら、亜熱帯気候の沖縄は温帯気候の日本本土に比べると日長や気温の変化が小さく、季節を知る手がかりが乏しい状態にあります。そのため、月の変化による影響が相対的に大きな手がかりとなり、沖縄の生き物は季節の認知に月の変化を利用するようになったと考えられています。 近年の研究によって、月周性産卵を行うサンゴや魚類は、「月明り」を感じることで産卵のタイミングを測っていることが明らかとなりました。しかし、どのような仕組みで月明りを感じているかといった、生理機構に関しては未だに不明な点が多く、今後の研究が期待されます。
図 2 満月 望月(もちづき)とも呼ばれる。日没付近から昇り始め、明け方付近に沈む。
最後に 現代において、月の変化が人間に影響を及ぼすかどうかは、未だにはっきりとした証拠がありません。しかしながら、多くの古典文学において月が登場することから、昔の人々の生活において月は魅力的な存在であったことが分かります。その一方で、今の私たちの生活では、電力の普及によって夜間でも街並みが明るくなってしまい、昔の人々が見たような月に出会える機会が知らぬ間に減っているように思います。ですので、天気がいい夜は電気を消して、お月様を眺めてみるのもいいかもしれません。 参考文献 石田真理雄他編:時間生物学辞典、朝倉書店、p. 30-31、2008. Robert E. Johannes: Env. Biol. Fish.、 3(1)、 65-84、 1978. 執筆者 福永 耕大
月を感じる沖縄の生き物
はじめに 皆さんは、多くの生物が月に影響を受けていることをご存知でしょうか?作り話の中で狼男は満月の夜に変身するといわれますが、現実でも月と生物には密接な関わりがあるのです。今回は、地球唯一の衛星である「月」と沖縄の生き物の関係を紹介します。 「月」と沖縄の生き物 沖縄では初夏になると、サンゴの集団産卵がメディアで大々的に取り上げられます。そのため、「サンゴの産卵日=満月の夜」ということは多くの人々が知っています。このような新月や満月といった月の満ち引きに合わせた1ヶ月の周期で行われる産卵は「月周性産卵」と呼ばれています。実は、沖縄にはサンゴ以外にも月周性産卵を行う生き物がいます。それが、サンゴ礁域の浅い海に生息するハタ科魚類のカンモンハタ(Epinephelus merra)(図 1)です。カンモンハタは産卵期になると、1ヶ月に1度、満月の夜に集まって一斉に産卵することが知られています。しかし、彼らはなぜ、満月の夜に集まって産卵するのでしょうか?
図 1 カンモンハタ 沖縄の方言でイシミーバイと呼ばれる。 英名は Honeycomb grouper:“ハチの巣”模様のハタ。 月周性産卵のメリット 実は、月周性産卵には、子孫をより多く残すための巧みな戦略が隠されています。まず、決まった場所へ同時期に集まることで、オスとメスの出会う機会が増えて卵の受精率を向上させる効果や、集団を作ることによって外敵に襲われる危険性を分散させる効果があるといわれています。次に、カンモンハタの卵は海水に浮く性質を持つので、潮の満ち引きが大きくなる満月で産卵することは、より広い範囲に子孫を拡散する効果があると考えられています。 このような月の変化に合わせた活動リズムは、国内においては沖縄の生き物で顕著にみられることが分かっています。それでは、なぜ沖縄の生き物は月の変化に合わせた活動リズムを持つのでしょうか?その理由を次の章で紹介します。 どうして「月」? 沖縄の生き物が月の変化に合わせた活動リズムを持つ理由は、沖縄と日本本土に生息する生き物をとりまく地球環境の違いにあります。生き物は、気温や日長といった周辺環境の変化を手がかりにして季節を認知しています。しかしながら、亜熱帯気候の沖縄は温帯気候の日本本土に比べると日長や気温の変化が小さく、季節を知る手がかりが乏しい状態にあります。そのため、月の変化による影響が相対的に大きな手がかりとなり、沖縄の生き物は季節の認知に月の変化を利用するようになったと考えられています。 近年の研究によって、月周性産卵を行うサンゴや魚類は、「月明り」を感じることで産卵のタイミングを測っていることが明らかとなりました。しかし、どのような仕組みで月明りを感じているかといった、生理機構に関しては未だに不明な点が多く、今後の研究が期待されます。
図 2 満月 望月(もちづき)とも呼ばれる。日没付近から昇り始め、明け方付近に沈む。
最後に 現代において、月の変化が人間に影響を及ぼすかどうかは、未だにはっきりとした証拠がありません。しかしながら、多くの古典文学において月が登場することから、昔の人々の生活において月は魅力的な存在であったことが分かります。その一方で、今の私たちの生活では、電力の普及によって夜間でも街並みが明るくなってしまい、昔の人々が見たような月に出会える機会が知らぬ間に減っているように思います。ですので、天気がいい夜は電気を消して、お月様を眺めてみるのもいいかもしれません。 参考文献 石田真理雄他編:時間生物学辞典、朝倉書店、p. 30-31、2008. Robert E. Johannes: Env. Biol. Fish.、 3(1)、 65-84、 1978. 執筆者 福永 耕大
月を感じる沖縄の生き物
はじめに 皆さんは、多くの生物が月に影響を受けていることをご存知でしょうか?作り話の中で狼男は満月の夜に変身するといわれますが、現実でも月と生物には密接な関わりがあるのです。今回は、地球唯一の衛星である「月」と沖縄の生き物の関係を紹介します。 「月」と沖縄の生き物 沖縄では初夏になると、サンゴの集団産卵がメディアで大々的に取り上げられます。そのため、「サンゴの産卵日=満月の夜」ということは多くの人々が知っています。このような新月や満月といった月の満ち引きに合わせた1ヶ月の周期で行われる産卵は「月周性産卵」と呼ばれています。実は、沖縄にはサンゴ以外にも月周性産卵を行う生き物がいます。それが、サンゴ礁域の浅い海に生息するハタ科魚類のカンモンハタ(Epinephelus merra)(図 1)です。カンモンハタは産卵期になると、1ヶ月に1度、満月の夜に集まって一斉に産卵することが知られています。しかし、彼らはなぜ、満月の夜に集まって産卵するのでしょうか?
図 1 カンモンハタ 沖縄の方言でイシミーバイと呼ばれる。 英名は Honeycomb grouper:“ハチの巣”模様のハタ。
月周性産卵のメリット 実は、月周性産卵には、子孫をより多く残すための巧みな戦略が隠されています。まず、決まった場所へ同時期に集まることで、オスとメスの出会う機会が増えて卵の受精率を向上させる効果や、集団を作ることによって外敵に襲われる危険性を分散させる効果があるといわれています。次に、カンモンハタの卵は海水に浮く性質を持つので、潮の満ち引きが大きくなる満月で産卵することは、より広い範囲に子孫を拡散する効果があると考えられています。 このような月の変化に合わせた活動リズムは、国内においては沖縄の生き物で顕著にみられることが分かっています。それでは、なぜ沖縄の生き物は月の変化に合わせた活動リズムを持つのでしょうか?その理由を次の章で紹介します。 どうして「月」? 沖縄の生き物が月の変化に合わせた活動リズムを持つ理由は、沖縄と日本本土に生息する生き物をとりまく地球環境の違いにあります。生き物は、気温や日長といった周辺環境の変化を手がかりにして季節を認知しています。しかしながら、亜熱帯気候の沖縄は温帯気候の日本本土に比べると日長や気温の変化が小さく、季節を知る手がかりが乏しい状態にあります。そのため、月の変化による影響が相対的に大きな手がかりとなり、沖縄の生き物は季節の認知に月の変化を利用するようになったと考えられています。 近年の研究によって、月周性産卵を行うサンゴや魚類は、「月明り」を感じることで産卵のタイミングを測っていることが明らかとなりました。しかし、どのような仕組みで月明りを感じているかといった、生理機構に関しては未だに不明な点が多く、今後の研究が期待されます。
図 2 満月 望月(もちづき)とも呼ばれる。日没付近から昇り始め、明け方付近に沈む。
最後に 現代において、月の変化が人間に影響を及ぼすかどうかは、未だにはっきりとした証拠がありません。しかしながら、多くの古典文学において月が登場することから、昔の人々の生活において月は魅力的な存在であったことが分かります。その一方で、今の私たちの生活では、電力の普及によって夜間でも街並みが明るくなってしまい、昔の人々が見たような月に出会える機会が知らぬ間に減っているように思います。ですので、天気がいい夜は電気を消して、お月様を眺めてみるのもいいかもしれません。 参考文献 石田真理雄他編:時間生物学辞典、朝倉書店、p. 30-31、2008. Robert E. Johannes: Env. Biol. Fish.、 3(1)、 65-84、 1978. 執筆者 福永 耕大