ニュースレター「サンゴ礁の自然環境」

2014年8月号

スツボサンゴはどこへ行く?

2016年2月号

沖縄の海への憧れから研究へ

砂の上でうごめくスツボサンゴのなぞ スツボサンゴという生き物を知っていますか?おそらく、名前も聞いたことがないという人がほとんどだと思います。実はこのサンゴ、ごく一部の生き物好きの間では大変な人気があります。人呼んで「歩くサンゴ」。サンゴはクラゲやイソギンチャクと近い動物の仲間なので触手や口の周りの筋肉を動かすことができますが、ほとんどの種類は基本的に体を岩などに固定していて、一生そこから動くことはありません。これを生物学用語で「固着性」といいます。ところが、スツボサンゴはどこにもくっつかずに生活する「非固着性」であり、しかも本当に文字通り海底を「動き回る」のです。 しかし、その動力は実際にはいたって「他力本願」。スツボサンゴの骨格の裏面には穴が空いていて、穴の中にはホシムシというミミズに似た形をした生物が住んでおり、このホシムシがスツボサンゴをうんしょ、うんしょと引きずって海底を動き回っていたのです。おっと、ここで「なぁんだ」とがっかりしないで下さいね。実はこのホシムシとスツボサンゴの関係には、生命の神秘や人と自然の関係にまでも及ぶ、めくるめく壮大な海底ドラマが隠されているのです。
スツボサンゴとホシムシの「相利共生」 まず、スツボサンゴはなぜホシムシと共同生活をしてまで、海底を動き回るのでしょうか?その理由は、スツボサンゴが生息する砂泥底という環境の特別さにあります。砂泥底は基本的に砂と泥の世界で、しがみつくための岩も隠れる陰もありません。そのため、自分で動くことのできない生物は砂に埋もれたりひっくり返ったりしてしまえば運の尽き、そのまま死んでしまいます。そこでスツボサンゴは、ホシムシに引きずってもらうことで埋もれたりひっくり返ったままになったりすることを防ぎ、砂泥底という環境を生き抜いているのです。ところで、このなんとも奇妙な両者の共同生活は、どのようにしてスタートするのでしょうか? 両者の「馴れ初め」はこうです。➀ホシムシがまず、小さな貝殻の中に住み込む②スツボサンゴの幼生が貝殻にくっつき、成長する➂スツボサンゴが、ホシムシが出入りする穴を残して貝殻をすっぽり覆ってしまう。はじめは他人同士だった二人が、貝殻という同じ家で出会い共同生活を始める様子は、まるで人間の夫婦が出来上がるまでを見るようで何ともユニークです。 スツボサンゴは、沖縄本島では今のところ金武湾の沿岸域、恩納村の深場などごく限られた場所からしか知られていません。いずれも今まで生き物の調査がほとんど行われていない、地元のダイバーも潜らない場所であったため、沖縄本島にスツボサンゴがいることが明らかになったのはそんなに昔の話ではないそうです。そのため、スツボサンゴについての基本的な知識、例えばどのくらいの個体数がいるかや、繁殖時期がいつかなどはほとんど知られていません。そもそも砂泥底という場所に生きる生物については知られていないことがとても多く、逆に言えばまだまだたくさん研究の余地が残されているのです。 スツボサンゴの墓場 沖縄本島には有名な観光ビーチがたくさんありますね。景色を眺めるにはどこも素晴らしいビーチですが、実はいくつかのビーチは他の場所から運んできた砂で造成された「人工海浜」と呼ばれるものです(あるいは、もともとある砂浜の減退を食い止めるため他の場所の砂を投入する「養浜」が行われているところもあります)。例えば、本島中部の北谷町に位置し、地元民にもビーチパーティーで人気のアラハビーチは、埋立地にまったく新たに作られた人工海岸です。不思議なことに、実はアラハビーチの砂をすくってみると、なんとスツボサンゴの骨格がザクザク出てくるのです。一体ここで何が起きているのでしょうか? 前述したようにスツボサンゴはとても特殊な環境に見られるサンゴで、開発の進んだアラハビーチに生息している可能性はほぼないと言っていいはずです。そんなアラハビーチでスツボサンゴの骨格が見つかるわけは、実はここが「人工海浜」であることと関係があります。結論から言うと、スツボサンゴの骨格は北谷町の海から来たものではなく、人工海浜を作るために投入された砂に混じっていたものだったのです。 海底を浚渫(しゅんせつ:海の底をさらって土砂などを取り去る工法のこと)して採取された砂の中には、しばしばスツボサンゴの骨格が混じっていますが、これらの骨格をよく観察すると比較的新しい、砂で削れていないものが多く見られます。これがどういうことを意味するかというと、多くのスツボサンゴが砂に混じって採取され、干からびて死んで行っているということです。これは何もスツボサンゴだけの話ではありません。一見何もいないように見える砂地は、実は魚の餌になるゴカイ(多毛類)などを含む多くの生き物を育み、たくさんのバクテリアを育て、サンゴ礁の水をきれいにする役割まで担っています。人間が美しいビーチを作っている裏で多くの生物が死に絶えようとしているのは何とも悲しく、また沖縄の観光の将来を考えても本当にこれでよいのかと思えてきます。もし、スツボサンゴの骨格をビーチで見つけたら、彼らがどこから来たのか、そしてホシムシではなく人間に運ばれてしまった彼らにはどんな未来が待っているのか、ぜひ一度考えてみて頂けたら幸いです。 執筆者 河村 伊織
砂の上でうごめくスツボサンゴのなぞ スツボサンゴという生き物を知っていますか?おそらく、名前も聞いたことがないという人がほとんどだと思います。実はこのサンゴ、ごく一部の生き物好きの間では大変な人気があります。人呼んで「歩くサンゴ」。サンゴはクラゲやイソギンチャクと近い動物の仲間なので触手や口の周りの筋肉を動かすことができますが、ほとんどの種類は基本的に体を岩などに固定していて、一生そこから動くことはありません。これを生物学用語で「固着性」といいます。ところが、スツボサンゴはどこにもくっつかずに生活する「非固着性」であり、しかも本当に文字通り海底を「動き回る」のです。 しかし、その動力は実際にはいたって「他力本願」。スツボサンゴの骨格の裏面には穴が空いていて、穴の中にはホシムシというミミズに似た形をした生物が住んでおり、このホシムシがスツボサンゴをうんしょ、うんしょと引きずって海底を動き回っていたのです。おっと、ここで「なぁんだ」とがっかりしないで下さいね。実はこのホシムシとスツボサンゴの関係には、生命の神秘や人と自然の関係にまでも及ぶ、めくるめく壮大な海底ドラマが隠されているのです。
スツボサンゴとホシムシの「相利共生」 まず、スツボサンゴはなぜホシムシと共同生活をしてまで、海底を動き回るのでしょうか?その理由は、スツボサンゴが生息する砂泥底という環境の特別さにあります。砂泥底は基本的に砂と泥の世界で、しがみつくための岩も隠れる陰もありません。そのため、自分で動くことのできない生物は砂に埋もれたりひっくり返ったりしてしまえば運の尽き、そのまま死んでしまいます。そこでスツボサンゴは、ホシムシに引きずってもらうことで埋もれたりひっくり返ったままになったりすることを防ぎ、砂泥底という環境を生き抜いているのです。ところで、このなんとも奇妙な両者の共同生活は、どのようにしてスタートするのでしょうか? 両者の「馴れ初め」はこうです。➀ホシムシがまず、小さな貝殻の中に住み込む②スツボサンゴの幼生が貝殻にくっつき、成長する➂スツボサンゴが、ホシムシが出入りする穴を残して貝殻をすっぽり覆ってしまう。はじめは他人同士だった二人が、貝殻という同じ家で出会い共同生活を始める様子は、まるで人間の夫婦が出来上がるまでを見るようで何ともユニークです。 スツボサンゴは、沖縄本島では今のところ金武湾の沿岸域、恩納村の深場などごく限られた場所からしか知られていません。いずれも今まで生き物の調査がほとんど行われていない、地元のダイバーも潜らない場所であったため、沖縄本島にスツボサンゴがいることが明らかになったのはそんなに昔の話ではないそうです。そのため、スツボサンゴについての基本的な知識、例えばどのくらいの個体数がいるかや、繁殖時期がいつかなどはほとんど知られていません。そもそも砂泥底という場所に生きる生物については知られていないことがとても多く、逆に言えばまだまだたくさん研究の余地が残されているのです。 スツボサンゴの墓場 沖縄本島には有名な観光ビーチがたくさんありますね。景色を眺めるにはどこも素晴らしいビーチですが、実はいくつかのビーチは他の場所から運んできた砂で造成された「人工海浜」と呼ばれるものです(あるいは、もともとある砂浜の減退を食い止めるため他の場所の砂を投入する「養浜」が行われているところもあります)。例えば、本島中部の北谷町に位置し、地元民にもビーチパーティーで人気のアラハビーチは、埋立地にまったく新たに作られた人工海岸です。不思議なことに、実はアラハビーチの砂をすくってみると、なんとスツボサンゴの骨格がザクザク出てくるのです。一体ここで何が起きているのでしょうか? 前述したようにスツボサンゴはとても特殊な環境に見られるサンゴで、開発の進んだアラハビーチに生息している可能性はほぼないと言っていいはずです。そんなアラハビーチでスツボサンゴの骨格が見つかるわけは、実はここが「人工海浜」であることと関係があります。結論から言うと、スツボサンゴの骨格は北谷町の海から来たものではなく、人工海浜を作るために投入された砂に混じっていたものだったのです。 海底を浚渫(しゅんせつ:海の底をさらって土砂などを取り去る工法のこと)して採取された砂の中には、しばしばスツボサンゴの骨格が混じっていますが、これらの骨格をよく観察すると比較的新しい、砂で削れていないものが多く見られます。これがどういうことを意味するかというと、多くのスツボサンゴが砂に混じって採取され、干からびて死んで行っているということです。これは何もスツボサンゴだけの話ではありません。一見何もいないように見える砂地は、実は魚の餌になるゴカイ(多毛類)などを含む多くの生き物を育み、たくさんのバクテリアを育て、サンゴ礁の水をきれいにする役割まで担っています。人間が美しいビーチを作っている裏で多くの生物が死に絶えようとしているのは何とも悲しく、また沖縄の観光の将来を考えても本当にこれでよいのかと思えてきます。もし、スツボサンゴの骨格をビーチで見つけたら、彼らがどこから来たのか、そしてホシムシではなく人間に運ばれてしまった彼らにはどんな未来が待っているのか、ぜひ一度考えてみて頂けたら幸いです。 執筆者 河村 伊織
砂の上でうごめくスツボサンゴのなぞ スツボサンゴという生き物を知っていますか?おそらく、名前も聞いたことがないという人がほとんどだと思います。実はこのサンゴ、ごく一部の生き物好きの間では大変な人気があります。人呼んで「歩くサンゴ」。サンゴはクラゲやイソギンチャクと近い動物の仲間なので触手や口の周りの筋肉を動かすことができますが、ほとんどの種類は基本的に体を岩などに固定していて、一生そこから動くことはありません。これを生物学用語で「固着性」といいます。ところが、スツボサンゴはどこにもくっつかずに生活する「非固着性」であり、しかも本当に文字通り海底を「動き回る」のです。 しかし、その動力は実際にはいたって「他力本願」。スツボサンゴの骨格の裏面には穴が空いていて、穴の中にはホシムシというミミズに似た形をした生物が住んでおり、このホシムシがスツボサンゴをうんしょ、うんしょと引きずって海底を動き回っていたのです。おっと、ここで「なぁんだ」とがっかりしないで下さいね。実はこのホシムシとスツボサンゴの関係には、生命の神秘や人と自然の関係にまでも及ぶ、めくるめく壮大な海底ドラマが隠されているのです。
スツボサンゴとホシムシの「相利共生」 まず、スツボサンゴはなぜホシムシと共同生活をしてまで、海底を動き回るのでしょうか?その理由は、スツボサンゴが生息する砂泥底という環境の特別さにあります。砂泥底は基本的に砂と泥の世界で、しがみつくための岩も隠れる陰もありません。そのため、自分で動くことのできない生物は砂に埋もれたりひっくり返ったりしてしまえば運の尽き、そのまま死んでしまいます。そこでスツボサンゴは、ホシムシに引きずってもらうことで埋もれたりひっくり返ったままになったりすることを防ぎ、砂泥底という環境を生き抜いているのです。ところで、このなんとも奇妙な両者の共同生活は、どのようにしてスタートするのでしょうか? 両者の「馴れ初め」はこうです。➀ホシムシがまず、小さな貝殻の中に住み込む②スツボサンゴの幼生が貝殻にくっつき、成長する➂スツボサンゴが、ホシムシが出入りする穴を残して貝殻をすっぽり覆ってしまう。はじめは他人同士だった二人が、貝殻という同じ家で出会い共同生活を始める様子は、まるで人間の夫婦が出来上がるまでを見るようで何ともユニークです。 スツボサンゴは、沖縄本島では今のところ金武湾の沿岸域、恩納村の深場などごく限られた場所からしか知られていません。いずれも今まで生き物の調査がほとんど行われていない、地元のダイバーも潜らない場所であったため、沖縄本島にスツボサンゴがいることが明らかになったのはそんなに昔の話ではないそうです。そのため、スツボサンゴについての基本的な知識、例えばどのくらいの個体数がいるかや、繁殖時期がいつかなどはほとんど知られていません。そもそも砂泥底という場所に生きる生物については知られていないことがとても多く、逆に言えばまだまだたくさん研究の余地が残されているのです。 スツボサンゴの墓場 沖縄本島には有名な観光ビーチがたくさんありますね。景色を眺めるにはどこも素晴らしいビーチですが、実はいくつかのビーチは他の場所から運んできた砂で造成された「人工海浜」と呼ばれるものです(あるいは、もともとある砂浜の減退を食い止めるため他の場所の砂を投入する「養浜」が行われているところもあります)。例えば、本島中部の北谷町に位置し、地元民にもビーチパーティーで人気のアラハビーチは、埋立地にまったく新たに作られた人工海岸です。不思議なことに、実はアラハビーチの砂をすくってみると、なんとスツボサンゴの骨格がザクザク出てくるのです。一体ここで何が起きているのでしょうか? 前述したようにスツボサンゴはとても特殊な環境に見られるサンゴで、開発の進んだアラハビーチに生息している可能性はほぼないと言っていいはずです。そんなアラハビーチでスツボサンゴの骨格が見つかるわけは、実はここが「人工海浜」であることと関係があります。結論から言うと、スツボサンゴの骨格は北谷町の海から来たものではなく、人工海浜を作るために投入された砂に混じっていたものだったのです。 海底を浚渫(しゅんせつ:海の底をさらって土砂などを取り去る工法のこと)して採取された砂の中には、しばしばスツボサンゴの骨格が混じっていますが、これらの骨格をよく観察すると比較的新しい、砂で削れていないものが多く見られます。これがどういうことを意味するかというと、多くのスツボサンゴが砂に混じって採取され、干からびて死んで行っているということです。これは何もスツボサンゴだけの話ではありません。一見何もいないように見える砂地は、実は魚の餌になるゴカイ(多毛類)などを含む多くの生き物を育み、たくさんのバクテリアを育て、サンゴ礁の水をきれいにする役割まで担っています。人間が美しいビーチを作っている裏で多くの生物が死に絶えようとしているのは何とも悲しく、また沖縄の観光の将来を考えても本当にこれでよいのかと思えてきます。もし、スツボサンゴの骨格をビーチで見つけたら、彼らがどこから来たのか、そしてホシムシではなく人間に運ばれてしまった彼らにはどんな未来が待っているのか、ぜひ一度考えてみて頂けたら幸いです。 執筆者 河村 伊織
砂の上でうごめくスツボサンゴのなぞ スツボサンゴという生き物を知っていますか?おそらく、名前も聞いたことがないという人がほとんどだと思います。実はこのサンゴ、ごく一部の生き物好きの間では大変な人気があります。人呼んで「歩くサンゴ」。サンゴはクラゲやイソギンチャクと近い動物の仲間なので触手や口の周りの筋肉を動かすことができますが、ほとんどの種類は基本的に体を岩などに固定していて、一生そこから動くことはありません。これを生物学用語で「固着性」といいます。ところが、スツボサンゴはどこにもくっつかずに生活する「非固着性」であり、しかも本当に文字通り海底を「動き回る」のです。 しかし、その動力は実際にはいたって「他力本願」。スツボサンゴの骨格の裏面には穴が空いていて、穴の中にはホシムシというミミズに似た形をした生物が住んでおり、このホシムシがスツボサンゴをうんしょ、うんしょと引きずって海底を動き回っていたのです。おっと、ここで「なぁんだ」とがっかりしないで下さいね。実はこのホシムシとスツボサンゴの関係には、生命の神秘や人と自然の関係にまでも及ぶ、めくるめく壮大な海底ドラマが隠されているのです。
スツボサンゴとホシムシの「相利共生」 まず、スツボサンゴはなぜホシムシと共同生活をしてまで、海底を動き回るのでしょうか?その理由は、スツボサンゴが生息する砂泥底という環境の特別さにあります。砂泥底は基本的に砂と泥の世界で、しがみつくための岩も隠れる陰もありません。そのため、自分で動くことのできない生物は砂に埋もれたりひっくり返ったりしてしまえば運の尽き、そのまま死んでしまいます。そこでスツボサンゴは、ホシムシに引きずってもらうことで埋もれたりひっくり返ったままになったりすることを防ぎ、砂泥底という環境を生き抜いているのです。ところで、このなんとも奇妙な両者の共同生活は、どのようにしてスタートするのでしょうか? 両者の「馴れ初め」はこうです。➀ホシムシがまず、小さな貝殻の中に住み込む②スツボサンゴの幼生が貝殻にくっつき、成長する➂スツボサンゴが、ホシムシが出入りする穴を残して貝殻をすっぽり覆ってしまう。はじめは他人同士だった二人が、貝殻という同じ家で出会い共同生活を始める様子は、まるで人間の夫婦が出来上がるまでを見るようで何ともユニークです。 スツボサンゴは、沖縄本島では今のところ金武湾の沿岸域、恩納村の深場などごく限られた場所からしか知られていません。いずれも今まで生き物の調査がほとんど行われていない、地元のダイバーも潜らない場所であったため、沖縄本島にスツボサンゴがいることが明らかになったのはそんなに昔の話ではないそうです。そのため、スツボサンゴについての基本的な知識、例えばどのくらいの個体数がいるかや、繁殖時期がいつかなどはほとんど知られていません。そもそも砂泥底という場所に生きる生物については知られていないことがとても多く、逆に言えばまだまだたくさん研究の余地が残されているのです。 スツボサンゴの墓場 沖縄本島には有名な観光ビーチがたくさんありますね。景色を眺めるにはどこも素晴らしいビーチですが、実はいくつかのビーチは他の場所から運んできた砂で造成された「人工海浜」と呼ばれるものです(あるいは、もともとある砂浜の減退を食い止めるため他の場所の砂を投入する「養浜」が行われているところもあります)。例えば、本島中部の北谷町に位置し、地元民にもビーチパーティーで人気のアラハビーチは、埋立地にまったく新たに作られた人工海岸です。不思議なことに、実はアラハビーチの砂をすくってみると、なんとスツボサンゴの骨格がザクザク出てくるのです。一体ここで何が起きているのでしょうか? 前述したようにスツボサンゴはとても特殊な環境に見られるサンゴで、開発の進んだアラハビーチに生息している可能性はほぼないと言っていいはずです。そんなアラハビーチでスツボサンゴの骨格が見つかるわけは、実はここが「人工海浜」であることと関係があります。結論から言うと、スツボサンゴの骨格は北谷町の海から来たものではなく、人工海浜を作るために投入された砂に混じっていたものだったのです。 海底を浚渫(しゅんせつ:海の底をさらって土砂などを取り去る工法のこと)して採取された砂の中には、しばしばスツボサンゴの骨格が混じっていますが、これらの骨格をよく観察すると比較的新しい、砂で削れていないものが多く見られます。これがどういうことを意味するかというと、多くのスツボサンゴが砂に混じって採取され、干からびて死んで行っているということです。これは何もスツボサンゴだけの話ではありません。一見何もいないように見える砂地は、実は魚の餌になるゴカイ(多毛類)などを含む多くの生き物を育み、たくさんのバクテリアを育て、サンゴ礁の水をきれいにする役割まで担っています。人間が美しいビーチを作っている裏で多くの生物が死に絶えようとしているのは何とも悲しく、また沖縄の観光の将来を考えても本当にこれでよいのかと思えてきます。もし、スツボサンゴの骨格をビーチで見つけたら、彼らがどこから来たのか、そしてホシムシではなく人間に運ばれてしまった彼らにはどんな未来が待っているのか、ぜひ一度考えてみて頂けたら幸いです。 執筆者 河村 伊織